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東京高等裁判所 平成8年(ネ)3251号 判決 1997年12月24日

控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 村田浩

被控訴人(被告) 株式会社御宿ゴルフ倶楽部

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 坂口公一

同 小林弘明

同 尾﨑毅

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し二五〇七万五〇〇〇円及びこれに対する平成七年一月一三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件は、控訴人が、被控訴人に対し、ゴルフ場の開場遅延等を理由として、被控訴人との間で締結していたゴルフクラブ入会契約を解除し、入会金二五〇万円及びその消費税七万五〇〇〇円並びに預託金二二五〇万円の返還並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成七年一月一三日から支払済みに至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

第三争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実

一1  被控訴人は、会員制ゴルフ場の経営を目的とする株式会社である。

2  被控訴人は、昭和六一年一二月ころ、千葉県夷隅郡<以下省略>に御宿ゴルフ倶楽部と称するゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を建設する構想をたて、平成元年五月ころに具体的な計画を策定した(甲六、乙二〇、二二)。

3  被控訴人は、平成二年六月一日ころには、本件ゴルフ場の用地を確保した上、コースの造成工事の着工に必要な許認可を取得しており、平成四年一一月にコースの工事を完了させる予定をたてていた(甲三六、乙二二)。

4  被控訴人は、平成二年七月ころ会員募集用のパンフレット等を作成し、同年八月から、まず、募集金額二五〇〇万円(入会金二五〇万、預託金二二五〇万)で特別縁故会員三〇〇名の募集を開始した(甲五、三六、乙二〇、二二)。

二1  控訴人は、平成二年九月、被控訴人に対し、本件ゴルフ場につき、その個人正会員となるための入会の申込みをし、同月二〇日付けで被控訴人から入会の承諾を得た上、同年一〇月二二日、入会金二五〇万円、その消費税七万五〇〇〇円及び預託金二二五〇万円を支払って、個人正会員となった(甲一ないし四。以下、この入会契約を「本件入会契約」という。)。

2  控訴人は、右預託金を調達するため、被控訴人の連帯保証の下、株式会社三井ファイナンスサービス(以下「三井ファイナンス」という。)から二二五〇万円を借り受け、控訴人は被控訴人が連帯保証人として代位弁済した際の求償権を担保するため、預託金の預り証を被控訴人に差し入れた(甲二〇、二一)。

三1  本件入会契約の際、控訴人が入手した被控訴人の会員募集用パンフレットには、本件ゴルフ場のコースの完成予定時期として平成四年一一月と記載されていた(甲三六)。

2  また、右パンフレットには、本件ゴルフ場の附帯施設として、欧米風リゾートホテル、室内外プール、アスレチックジム等を建設する旨記載されていた(甲三六)。

3(一)  本件入会契約当時の本件ゴルフ場の会則には、本件ゴルフ場の会員の種類は、名誉会員、特別会員、正会員(法人及び個人)、平日会員(法人及び個人)の四種類と定められており(甲八)、募集要項には、最終正会員数は一二〇〇名以内と記載されていた(甲五)。

(二)  また、会則には、名誉会員、特別会員及び正会員は、所定の休日を除き、被控訴人が所有し、かつ、経営するゴルフコース及びこれに附帯する諸施設を利用することができる旨並びに平日会員は、所定の休日及び土、日並びに祝祭日(振替休日を含む。)を除き、被控訴人が所有し、かつ、経営するゴルフコース及びこれに附帯する施設を利用することができる旨定められていた(甲八)。

四  被控訴人は、特別縁故会員が予定の会員数に達したことから、平成二年一〇月一日から、募集金額三三〇〇万円(入会金三三〇万円、預託金二九七〇万円)の縁故会員五〇〇人の募集を開始したが、いわゆるバブルの崩壊の影響もあって約二〇〇人しか募集できなかった(甲一〇、一八、乙二〇、二二)。

五1  被控訴人は、平成三年四月二〇日、クラブハウス及び附帯施設について建築確認を受け(乙二二)、同年六月一四日、佐藤工業株式会社(以下「佐藤工業」という。)に対し、クラブハウス及び附帯施設の工事完成時期を平成五年一月三一日と定めた上、報酬は出来高払いとの約定で工事(四階建)の仮発注をし、佐藤工業は、同年七月に着工した(甲二九、乙八ないし一〇、二二、二三)。

2  しかし、被控訴人は、平成四年一月ころから、資金調達と建設計画の見直しを始めた(乙二二)。

六1  被控訴人は、平成四年五月、その会則二四条の被控訴人の取締役会の決議により会則を改廃できる旨の定めに基づき、当初の名誉会員、特別会員、正会員のほか、新たに、特別正会員(法人及び個人)、新平日会員(土曜日にもプレーをすることができる。)、週日会員、家族会員、ソシアル会員という会員資格を創設した(甲一三)。

2  なお、特別正会員は、正会員としての施設利用権を有するほか、一定の範囲の者一人をサブ登録者として記名式で登録することができる会員資格である。このサブ登録者は、特別正会員が施設を利用しない営業日に限って正会員の資格と同等の資格で施設を利用することができるが、ゴルフ倶楽部主催の諸行事への参加等については正会員と同等の扱いを受けることはできない。また、週日会員は、本件入会契約時の平日会員の名称を変更したものである。

3  被控訴人は、特別正会員の新規募集及び正会員から特別正会員への変更の申込みを、平成四年五月一日から同月三一日までの一か月に限り行ったが、新規の特別正会員の入会者はなく、正会員から特別正会員への変更申込みは四八人であった(甲一三、一四、乙六、二二)。

七1  被控訴人は、平成四年五月頃、佐藤工業に対しクラブハウス及び附帯施設工事の三階建への縮小変更を申し出(甲三〇、乙二二)、同年九月九日、縮小変更後の計画に基づきクラブハウス及び附帯施設につき新たに建築確認を得た(乙二〇、二二)。

2  しかし、右変更の申出後、佐藤工業と被控訴人との間で出来高について意見が対立し、佐藤工業は、同年八月三一日に躯体工事についての代金の精算をした上、躯体コンクリート打設を完了した段階で同年九月初めに工事を中断した(甲二九、乙二二)。

3(一)  被控訴人は、平成五年七月、会員に対し、コース造成工事については、第一〇、第一一ホールが遅れているが、他は完了している旨、クラブハウスについては同月一日から工事を再開した旨通知した(甲一五)。

(二)  また、被控訴人は、平成五年一一月までに、工事を第一期工事(クラブハウス棟関係)と第二期工事(ホテル棟関係)とに分け、クラブハウスを宿泊ルーム一一室が完備した状態で平成六年五月に完成させることに計画を変更し(乙二、三、二二)、同年一二月、右計画に基づき新たにクラブハウスにつき建築確認を受けた。

(三)  被控訴人は、平成五年一一月には、コースをほぼ完成させた上、会員に対し、コースがほぼ完成した旨及び工事を第一期工事と第二期工事とに分け、第一期工事に含まれるクラブハウスを宿泊ルーム一一室が完備した状態で平成六年五月に完成させて、そのころ本件ゴルフ場を開場する予定である旨通知した(乙二、三、二二)。

4  被控訴人は、平成五年一二月一六日、佐藤工業との間で、変更後の右計画に基づきクラブハウス棟の建築工事について、完成時期を平成六年七月三一日と定め、また代金の分割支払の時期を定めて仮契約を締結した(乙一二)。

5(一)  そこで、佐藤工業は、平成六年一月に工事を再開したが、被控訴人において同年一月二〇日に支払うべき三億円を同年三月二八日まで支払わず、また、同年三月二〇日に支払うべき四億円について会員権による支払の申出をして期日に支払わず、同月末に撤退を要求されたので、同年四月一日に工事を中止した(甲二九、乙一二、二三、二四)。

(二)  これに対し、被控訴人は、同月一三日、工事の再開を申し入れ、同月一八日、佐藤工業との間で協議をしたが合意に達しなかった<証拠省略>。

6  被控訴人は、平成六年四月、会員に対し、クラブハウスの工事の遅延のため同年五月の開場ができず、完工の見込みがたてば仮開場等のスケジュールを連絡する旨通知した(甲一六)。

7  しかし、平成六年六月二〇日、被控訴人は佐藤工業に対し再度撤退の要請をし、佐藤工業はクラブハウスの建築工事から撤退した(乙一七)。

8  そして、被控訴人は、平成六年七月二二日到達の内容証明郵便により、佐藤工業に対し請負契約解除の意思表示をし(乙一六の一、二)、同年八月四日、施工業者を株式会社吉原組(以下「吉原組」という。)に変更した<証拠省略>。

9  被控訴人は、平成六年一一月一日付けで、会員に対し、工事が順調に進んでいるので平成七年二月末日にクラブハウスが完成し同年五月に開場できる旨通知した(甲一七)。

八  控訴人は、平成七年一月一二日、本件訴状の送達により、被控訴人に対し、開場の遅延、附帯施設の建設取止め、特別正会員の新設等が債務不履行に当たるとして、本件入会契約を解除する旨の意思表示をした。

九1  吉原組は、平成七年一二月、第一期工事(クラブハウス棟関係)を完成し、本件ゴルフ場は同年四月二六日に開場した。

2  右クラブハウスには、四二人が宿泊可能な客室一一室が備わっているが、第二期工事に回されたホテルその他の附帯施設については、佐藤工業により基礎部分は施工されてはいるが、未だ工事を続行するための具体的計画はたてられていない<証拠省略>。

一〇1  被控訴人の会員数は、平成七年一〇月一二日の時点で、正会員五〇七名、新平日会員一一一名、週日会員三二名、サブ登録者四八名であった(乙六)。

2  被控訴人は、同年一二月、正会員権を次のとおり二分割することとし、その実施を平成八年二月一日とした(甲二二ないし二七)。

(一) 二分割によって交付される新会員券をA券、B券とし、A券、B券の表示する預託金額はそれぞれ従前の預託金額の半額とする。

(二) A券は従前からの会員の名義とし、B券については平成八年二月一日から二年間(二口以上の正会員資格を分割した場合は、二口目以降のB券に相当するD、F、H券は四年間)無記名会員券の取扱いをする。B券を無記名会員券とした場合、パス券持参者は正会員として取り扱われる。B券についても、A券の会員の希望により、第三者への名義書換えを行う。

(三) 分割を希望しない正会員はそのままの地位に止まることができる。

3  また、被控訴人は、右二分割に伴い、最終正会員数を一八〇〇名とした(甲二四)。

二(一) 控訴人は、平成八年四月一六日の原審第一一回口頭弁論期日において、被控訴人に対し、右二分割が本件入会契約上の重大な義務違反に当たるとして本件入会契約を解除する旨の意思表示をした。

(二) 控訴人は、平成八年一〇月二三日の当審第一回口頭弁論期日において、被控訴人に対し、ホテル等の附帯施設の建設の遅延が本件入会契約上の重大な義務違反に当たるとして本件入会契約を解除する旨の意思表示をした。

第四争点とこれについての当事者双方の主張

本件の争点は、控訴人が本件会員権を三井ファイナンスに譲渡担保として提供しているか否か(当事者適格があるか否か)、以下の理由に基づき、控訴人において本件入会契約を解除することができるか否か、である。

一  本件ゴルフ場の開場遅延について

1  控訴人の主張

(一) 本件ゴルフ場のコース完成予定時期は平成四年一一月であり、被控訴人は控訴人に対し、本件入会契約において、そのころ本件ゴルフ場を開場することを約したが、その後度々一方的に開場時期を変更し、平成六年一一月になって平成七年五月に開場するとの通知をしてきたものであるから、被控訴人には約定の時期に本件ゴルフ場を開場しなかった債務不履行がある。

(二) 被控訴人は、平成二年六月には本件ゴルフ場の用地を確保しており、また、コースの造成工事に必要な許認可を得ていたし、クラブハウス及び附帯施設の建築確認も平成三年四月には得ていたのであるから、遅くとも平成五年五月には本件ゴルフ場を開場することができた。

(三) 被控訴人には、本件ゴルフ場を開設し会員を募集しようとする以上、当然に景気の変動を予想し、それに対応して資金手当をする義務があるから、景気変動によって資金不足になった場合であっても、資金不足による開場遅延は、被控訴人の責めに帰すべき事由によるものといえる。

(四) 佐藤工業が工事を中断したのは、被控訴人が資金不足のため再三計画の変更、工事の中断を申し入れたり、請負代金の支払を怠ったりしたことによるものであるから、開場遅延は、被控訴人の責めに帰すべき事由によるものである。

(五) また、そもそも被控訴人に真の意味での資金不足はなかったのであって、仮に資金不足状態が生じたとすれば、被控訴人が会員権販売等により調達した資金を他に流用したからである。

2  被控訴人の主張

(一) 被控訴人が控訴人に対して明示した本件ゴルフ場の開場予定時期は平成五年春である。被控訴人の会員募集用パンフレットに記載されている平成四年一一月は、コースの完成予定時期であって、開場予定時期ではない。

そして、本件ゴルフ場は、平成七年四月二六日に開場したから、開場時期の遅延は、予定時期から二年以内であり、ゴルフ場の着工から開場までには当初予想できない様々な困難がありうることを考慮すると、この程度の遅延は、社会通念上相当として許容される範囲内のものであり、債務不履行にはならない。

(二) ゴルフ場の建設においては、その給付の性質上、履行代行者の使用が不可欠であり、本件でもパンフレットにおいて、ゴルフコースの施工業者が記載され、クラブハウスの施工業者は未定と記載されているから、本件入会契約においては、特約として履行代行者の使用が積極的に許されている。

したがって、被控訴人は、履行代行者の選任、監督に過失があった場合にだけ債務不履行の責任を負うというべきところ、被控訴人には右過失がない。

(三) 本件ゴルフ場の開場遅延は、バブル崩壊による資金不足と佐藤工業の過失によるものであって、被控訴人の責めに帰すべき事由によるものではない。

被控訴人は、佐藤工業と、本件ゴルフ場を平成五年一月三一日には竣工するとの約束で、クラブハウス建設工事についての請負契約を締結し、支払条件は出来高払いとし、被控訴人がその出来高を確認後に支払うことを約した。

しかし、被控訴人が佐藤工業の出来高に基づくとする請求に対して検査をしたところ、出来高として請求された金額に見合う内容の工事がされていなかったため、被控訴人は佐藤工業に対する支払をしなかった。それに対抗するため、佐藤工業は、平成四年九月からクラブハウス建設工事を中断した。

したがって、佐藤工業が一方的に工事を中断したことにより工期が遅れ開場遅延が生じたのであるから、開場遅延は、佐藤工業の責めに帰すべき事由によるものである。

(四) 被控訴人が資金不足に陥ったのは、当初の建設資金を二三六億円と見積もった平成元年春以降、土地取得代金の値上がり、借地予定者からの買い上げ要請、県道工事、進入路工事、町道の補修、拡幅等の見積り外の支出、県からの植栽増加の指導、排水管の入れ直し、業者の変更に伴う費用の増加、JRや町及び地元への寄附金並びに開場遅延に基づく約二年間の建設事務所経費、人件費、維持管理費、金利等、当初の見積もりで見積もっていなかった費用が発生し、合計三〇〇億円の費用が必要となってしまったためである。

二  附帯施設の未整備について

1  控訴人の主張

(一) 被控訴人は、控訴人に対し、本件入会契約の締結の際、平成四年一一月の開場時期には、欧米風高級リゾートホテル(客室四八室、地上四階地下一階建)、室内プール及び室外プール、アスレチックジム等(以下「本件附帯施設」という。)を設置し、これを控訴人に使用させることを約した。

(二) 本件ゴルフ場は、東京から遠隔の地にあり、入会者はホテルに宿泊してゴルフプレーを楽しむばかりでなく、長期滞在でも飽きることのないリゾートライフを楽しむことができる立派な附帯施設を有するとして勧誘され、控訴人もこれを目的として、本件入会契約を締結したのである。したがって、本件附帯施設を建設してこれを控訴人に利用させる被控訴人の義務は、本件入会契約の要素たる義務というべきである。

ところが、被控訴人は本件附帯施設を建設しておらず、平成八年一〇月二三日の時点においても、建設できるめどもたたない状態であった。

(三) なお、被控訴人の主張する宿泊設備の整備の内容は、クラブハウス内にある一一室をいうにすぎず、平成八年四月、五月の連休や八月中旬の夏期シーズンには、会員は満足に宿泊予約をとることができなかった。

2  被控訴人の主張

(一) 本件附帯施設は、ゴルフを行うために必要不可欠な施設ではなく、本件入会契約の内容になっていない。

(二) 仮に、本件附帯施設の建設が本件入会契約の内容に含まれるとしても、本件入会契約の目的はゴルフを通じて会員相互の親睦を図り、各自の技能の向上を図ることにあるのであるから、本件附帯施設の建設は、本件入会契約においていわば付随的な義務にすぎないところ、このような付随的な義務を怠ったにすぎない場合には、本件入会契約の解除は許されないというべきである。

(三) また、本件附帯施設の建設が本件入会契約の内容に含まれるとしても、会員の施設利用権の本質的部分の侵害とならない範囲で、施設の内容や完成時期についてある程度の変更が許されるところ、被控訴人は、クラブハウスと客室(広さとグレードは、ほぼ会員募集用パンフレットに記載しているものと同じである。)は完成させているのであるから、必要十分な施設は完成しており、今後予定されている第二期工事によって、将来はホテル等も完成する見込みであるから、債務不履行とはならない。

三  新たな種類の会員資格の新設・募集について

1  控訴人の主張

(一) 被控訴人は、本件入会契約締結の際、控訴人に対し、本件ゴルフ場の会員の種類は、名誉会員、特別会員、正会員(法人及び個人)、平日会員(法人及び個人)の四種類とする旨約した。これ以外の新たな会員資格の創設は、既入会会員の基本的権利に影響を及ぼす措置であるから、被控訴人は、控訴人の同意なくして一方的に行うことはできないというべきである。

(二) しかるに、被控訴人は、新たに、特別正会員(法人及び個人)という会員資格を創設し、三五〇〇万円で新規申込みを多数受理し、かつ、既存の正会員からの変更申込みを受理した。

この特別正会員という会員資格は、会員になれば、サブ登録者一名が登録されるもので、サブ登録者は、自己の特別正会員がプレーをする日と同日にプレーすることはできないものの、特別正会員と同一の条件でプレーの予約をし、ホテルやクラブハウスに宿泊し、他の設備も利用することができ、料金は特別正会員と同一である。その結果、実質的には、大幅な会員の増加となり、本件ゴルフ場の格式を低下させ、会員権の価値を著しく下落させることとなった。

(三) さらに、被控訴人は、土曜日にプレーすることができる新平日会員という新規会員資格を創設し、その募集を開始して申込みを受理した。その結果、正会員の土曜日の利用に支障を来すことが予想される。

2  被控訴人の主張

(一) 控訴人は、本件入会契約締結の際、会則を承認しているところ、被控訴人が行った新たな会員資格を創設することに関する会則の変更は、控訴人の既得の権利を制限したり剥奪したりするものではなく、控訴人の義務を新たに課したり加重したりするものでもないから、右会則の変更は有効であり、被控訴人に義務違反はない。

(二) 控訴人に不利となるような会則の変更を一方的にできないことは当然であるが、新たな種類の会員資格の創設により、控訴人の本件ゴルフ場の施設利用に支障が生じているわけではなく、控訴人に不利となっているものではない。

すなわち、本件ゴルフ場は、一日当たり一六〇名、四〇組が適性な利用客数であるが、適正会員数を超えて会員を募集しているわけではなく、また、新たな会員資格を創設した後も、開場後現在まで右適正数を超えた利用はないから、控訴人の施設利用権が現実に侵害されているわけではない。

(三) 特別正会員のサブ登録者は、特別正会員と同日に施設を利用しようとするときは、ビジターとして利用することとなり、かつ、特別正会員が施設を利用しない営業日に限って、単に正会員の資格と同等の資格で施設を利用することができるものであって、しかも、本件ゴルフ倶楽部主催の諸行事等への参加等についても正会員と同等の扱いを受けるものではないので、特別正会員が実質的に二口の正会員資格を取得したことにはならず、また、サブ登録者が控訴人の権利を侵害することにもならない。

また、被控訴人は、特別正会員の新規募集及び正会員から特別正会員への変更申込みを、平成四年五月一日から同月三一日までの一か月に限り行ったが、新規の特別会員の入会者はなく、正会員から特別正会員への変更申込みが四八名あっただけであり、このサブ登録者四八名という人数は、最終正会員募集数一二〇〇人のわずか四パーセントにすぎない。

さらに、会員資格の経済的価値は、本件入会契約の内容となっていない。仮に、控訴人の会員資格の経済的価値を下落させないことが被控訴人の義務に含まれるとしても、被控訴人は控訴人に対し、新規募集の特別正会員申込みの条件よりはるかに有利な条件で、正会員から特別正会員への変更申込みの機会を与えており、この機会を利用しなかった以上は、控訴人の会員資格の経済的価値が仮に下落したとしても、被控訴人の責任ではない。

四  正会員を二分割した措置について

1  控訴人の主張

(一) 被控訴人は、平成七年一二月、正会員権を二分割したが、それによって、二種類の正会員ができるばかりでなく、無記名会員券は誰でも自由に使用できるため、本件ゴルフ場のパブリック化を招いて、利用者が増加するし、無記名会員の存在は、本件ゴルフ場の格式を著しく低下させるから、右二分割は、本件入会契約上の義務違反となる。

(二) さらに、本件入会契約では最終正会員数が一二〇〇名以内とされているが、分割実行後の募集人員は一八〇〇名とされており、そのような最終正会員数の変更は、重大な義務違反となる。

2  被控訴人の主張

(一) 控訴人の主張する二分割が債務不履行となるかどうかは、会員の施設利用権の具体的侵害の有無を、形式的にではなく実質的に判断して決するべきである。

(二) 本件ゴルフ場は、一八ホールを有しており、同規模のゴルフ場の適正正会員数は一八〇〇名であるから、二分割実行に伴い正会員が一八〇〇名になったとしても、右適正正会員数内である。また、当時の正会員数は五〇七名であったから、二分割によって正会員が二倍になっても、正会員数は一〇一四名にしかならない。

したがって、控訴人の施設利用権が具体的に侵害されたとはいえない。

(三) また、被控訴人は、ゴルフ場の格式及び会員権価格を維持する義務を負担していないし、そもそも、無記名会員の創設が直ちにゴルフ場の格式の著しい低下を招くともいえない。なお、本件の無記名会員券は、存続期間が原則二年と区切られており、一時的なものにすぎない。

第五証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第六争点に対する当裁判所の判断

一  前示のとおり、控訴人は三井ファイナンスから二二五〇万円を借り受けた際、連帯保証人となった被控訴人の求償権を担保するため預託金の預り証を被控訴人に差し入れているが、控訴人が会員権自体を三井ファイナンスに対し譲渡担保に供した事実を認めるに足りる証拠はないから、控訴人が本件訴えの当事者適格を有していないとか、本件の金員返還請求権を行使できないとすべき理由はない。

二  本件ゴルフ場の開場遅延による解除について

1  本件入会契約の締結に際し控訴人に配布された会員募集用パンフレットに本件ゴルフ場のコース完成予定時期として平成四年一一月と記載されていたことは前示のとおりであり、証拠(甲一〇、乙二〇、二二)によると、被控訴人は、コース完成後も芝の活着等のために半年程度の期間が必要であると考え、本件ゴルフ場の正式開場を平成五年春(四月又は五月)と予定していたことが認められ、右パンフレットの記載が本件ゴルフ場の開場時期ではなくコースの完成時期と明記されていること、一般にコースの工事完了後、芝の活着等のためにある程度の期間が必要であると考えられることからして、被控訴人は、本件ゴルフ場の開場予定時期を平成五年春(四月又は五月)として会員の募集を行ったものであり、募集に応じた者も客観的には開場時期を右のように理解すべき状況にあったものと認められる。

したがって、本件入会契約においても、開場時期は平成五年四月又は五月が予定されていたものと認められる(控訴人本人(当審)も、平成四年一一月にコースが完成し、その後、すぐ仮開場するものと理解していた旨供述しているところであって、平成四年一一月が正式開場の予定時期と理解していたとはいえない。)。

もっとも、本件のようにゴルフ場の将来における完成、開場を見込んで入会契約が締結された場合において、募集用パンフレット等に開場の予定時期を予測させるコース完成予定時期が記載されているときは、当事者はその後の建設工事の進捗状況及び社会状況に照らし首肯できる相当期間の遅延をも予定しているものとみるのが相当であり、そのような相当期間が経過したときに初めて開場時期(履行期)が経過したものとするのが相当である。

2  そこで、右のような観点から本件について見るに、被控訴人が平成二年六月一日の時点でゴルフ場用地を確保しコース造成のための許認可を得ていたことは前示のとおりであり、また、証拠(甲三六、乙二〇、二二)と弁論の全趣旨によると、被控訴人は、右のような計画の進捗状況を前提として平成四年一一月にコースを完成させた上、平成五年春の開場までにクラブハウス及び本件附帯施設を完成させることを予定していたことが認められる。

そして、前示のように、コースは予定より一年遅れて平成五年一一月にほぼ完成しており、コースについては、遅くとも予定より一年遅れた平成六年春には開場できる状況にあったといえるから、本件ゴルフ場の開場がさらに約一年遅れて平成七年四月二六日になったのは、クラブハウスの建設が遅延したためと認められる。

右遅延の理由について、被控訴人は、佐藤工業が一方的に工事を中断したからであると主張する。しかし、<証拠省略>と弁論の全趣旨によると、被控訴人は、いわゆるバブルの崩壊により当初五〇〇名募集することを予定していた縁故会員を約二〇〇名しか募集できず、また、いわゆる総量規制により銀行から予定していた資金を借りられなかったことから、平成四年一月に計画の見直しをし、以後、前示のように佐藤工業に対しクラブハウス及び本件附帯施設の工事の縮小変更を申し出、その後さらに計画を変更して工事を第一期工事(クラブハウス棟関係)、第二期工事(ホテル棟関係)と分けて、第二期工事に回したホテル棟の建設の中止を申し出る等し、また、佐藤工業に対する工事代金の支払を度々遅滞したことから、佐藤工業が工事を延期又は中止したことが認められるのであって、右工事の遅延が佐藤工業の責めに帰すべき事由に基づくものと認めるに足りる証拠はない。

そうすると、当時、一般に、ゴルフ場の建設資金として自己資金のほか借入金や会員の募集による預託金等を予定することが行われており、入会者もそのことを前提として入会契約を締結していたことを考慮しても、右のような資金不足による工事の遅延を右相当期間の決定に際し考慮し得るのは、前示の事実経過からすると、当初の予定より一年経過し、被控訴人において会員に対し新たに開場時期として予告した平成六年五月が限度というべきである。

したがって、被控訴人は、平成六年五月には、本件ゴルフ場を開場すべき時期(履行期)を徒過したものと認められる。

3  ところで、前示のように、被控訴人は、平成六年八月四日に施工業者を佐藤工業から吉原組に変更してクラブハウスの建設を続行し、同年一一月には会員に対し、工事が順調に進んでいるので平成七年二月末日にクラブハウスが完成し同年五月には本件ゴルフ場を開場できる旨通知しており、また、実際にも予定どおり二月にクラブハウスを完成させて四月二六日には本件ゴルフ場を開場している。

したがって、控訴人が本件訴状の送達をもって被控訴人に対し本件入会契約を解除する旨の意思表示をした平成七年一月一二日の時点では、同年五月に本件ゴルフ場を開場できる十分な見込みがあり、また、そのことはコースが完成していることやクラブハウスの建築状況からも容易に認識できる状況にあったものと認められる上、被控訴人は、各会員に対しその旨通知しているのであるから、右の時点においては、控訴人にとって、ゴルフ場の開場遅延はそれを理由として本件入会契約を解除しなければ契約の目的を達することができないような重要な債務の不履行であったとはいえない。

したがって、被控訴人は、右解除の意思表示の時点において本件ゴルフ場の開場時期(履行期)を徒過し債務不履行状態に陥っていたとはいえるが、控訴人は、そのことを理由として本件入会契約を解除することはできないというべきである。

三  本件附帯施設の未整備を理由とする解除について

1  本件入会契約の締結に際し配布された会員募集用パンフレットに本件ゴルフ場の附帯施設として欧米風リゾートホテル、室内外プール、アスレチックジム等を設ける旨記載されていたことは前示のとおりである。

そして、右パンフレット(甲三六)においては、次のように本件ゴルフ場のリゾート施設としての特徴が強調されている。

(一) まず、右パンフレットには、一体となったクラブハウス棟、ホテル棟等の施設の予想図が掲げられており、そこに、「南欧の高級リゾートを思わせる瀟洒な外観とゆったりした客室。」「本物のクラブライフを知るゴルファーのための最高のホスピタリティーがここにある。」と記載され、さらに、「御宿ゴルフ倶楽部(OJ)のクラブライフは、ゴルフの何たるかを知るものにとってこの上ない安らぎと満足を得るものとなるでしょう。ゴルフコースのほぼ中央に位置する四階建ての建物は、欧米の伝統的なリゾートホテルの様式を受けついだモダンな中にも格調の漂う外観を持ち、本物のクラブライフを体験する場となるでしょう。建物はアプローチおよびポーテコシュアをはさんでホテルとクラブハウスに分かれています。ホテルは建物の中央に一階から四階まで自然光がふりそそぐ直径一五メートルの吹き抜けがあり、ゲスト客室からパブリックスペースへ出入りするたびに、光と影、自然と人工という二つの相対する世界が交互に現われるドラマティックな演出がほどこされています。」「全体およびパブリックスペースに見られるホスピタリティーと共に、OJで私たちがゲストにおとどけするのは、一室平均一八坪以上のゆったりした客室できめ細かなサービスが受けられる、プライベートタイムの快適さです。ホテル、クラブハウス共に、私たちは、ゲストに最高のくつろぎを提供することを何よりも大切に、部屋数を多くとることよりも一室当たりの広さ、ゆったりしたグレードの高いくつろぎの場としての考え方を優先させました。すべての客室がスイート・ルームの広さと優雅さとを持つOJでは、ぜひ、いままで日本のゴルフリゾートでは体験できなかったわがままな休日をお楽しみいただきたいと思います。」「日本にひとつぐらいはこんなゴルフ倶楽部があってもいい時代がそろそろ来ているのではないでしょうか。」と記載されている。

(二) また、その次の頁には、クラブハウス棟及びホテル棟の地下一階から四階までの見取り図が掲載され、ホテル棟の地下一階に室内プールとジャグジー、アスレチックジムがあり、クラブハウスの二階にはメインレストラン、ホテルの二階には三つのレストランがあり、長期滞在のゲストも飽きることなくバラエティのある味覚を楽しむことができるとされ、クラブハウス、ホテルとも三階、四階は合計四八の客室スペースとなっているとされているほか、屋外プールも設けられるとされ、その内容が具体的に記載されている。

(三) さらに、その次の頁には、御宿ゴルフ倶楽部のインテリアを担当したのは、欧米の高級リゾートプロジェクトに数々の実績を持つBであるとしてインテリアデザインの担当者が顔写真入で紹介され、「OJは、日本ではまだ希な滞在型ゴルフリゾートである。」「ゴルフ=男性のスポーツといった発想ではなく、家族連れでおいでになったお客さまや、最近増えている女性のゴルファーの方のために、たとえば大きな鏡や着替えのスペースをゆったりととるといった工夫もしている。」「今回のプロジェクトは、ゴルフ倶楽部のホテルとしては日本で最高のものになるであろう。」といったデザイン担当者の発言が掲載され、リゾートホテルとしての設備や内装の良さが強調されている。

(四) そして、他の頁では、「洗練されたのびやかな空間に気品のある時間が流れる。ゴルフをこよなく愛するゲストのための、Bの仕事。」と題して、ホテルロビー、ゲストルーム、ロイヤルスィートの予想図が掲げられている。

(五) また、他の頁では、「コースに出ない時間も優雅に。御宿のリゾートライフ。」「ゴルフリゾートにゴルフ以外の愉しみがあってもいい。OJはそう考える。首都圏からのアクセスの良さを生かしたさまざまなリゾートライフを楽しんでいただきたい。」と記載され、さらに、「都心から約二時間、新鮮な海の幸、四季折々の表情豊かな南房総の自然の中に、リゾートライフの拠点を持つことは本物のゴルフリゾートを求める都市生活者にとって人生の大いなる喜びとなります。ゴルフ倶楽部に来て、ゴルフをしない一日があってもいい。それがOJのゴルフリゾートに対する考え方です。夏であれば午前中の涼しい時間帯にハーフをまわって、午後は海に出て家族や仲間とクルージングに興じる、そんな過ごし方もOJではできます。」と記載されている。

2  これに対し、ゴルフコースについては、右パンフレットにおいては、コースの設計者と監修者との名前は紹介されているが、具体的な特徴は掲げられていない。

3  そして、証拠(甲三六、四〇、四一、四三、控訴人本人(当審))によると、控訴人は、他にもゴルフクラブの会員権を有していたが、本件ゴルフ場の会員募集担当者から、右パンフレットを交付され、本件ゴルフ場がリゾート地である御宿にあるというだけではなく、本件ゴルフ場に会員用の高級リゾートホテルが設けられ、そこには和食レストラン、洋食レストラン、メインバー、メンバーズサロン、室内外プール、アスレチックジム等が設けられて、ゴルフのほかにも家族と共に滞在型のリゾート生活をすることができると強調されたこと、控訴人の住居は東京都千代田区<以下省略>という交通至便な場所にあるが、電車等の公共交通機関を利用しても、また全行程自動車を利用しても、本件ゴルフ場までの所要時間は片道で約二時間はかかること、控訴人は、自動車を運転するので本件ゴルフ場には専ら自ら運転する自動車で行くことを前提とし、その場合には片道二時間半かかるので日帰りでは日程に余裕がないため原則として宿泊することになるものと考え、右のような他のゴルフ場には見られない充実した施設を備える会員用の高級ホテルが設置されることに特に価値を置き購買意欲をそそられたこと、控訴人は会社の代表取締役として事業に携わり、実業の世界に身を置く者であり、リゾート地のゴルフ場で一日プレーをしそこに併設されている高級ホテルに宿泊して余暇を楽しむということは年間を通じ一再ならずあり得ることであること、当時、遠隔地のリゾート地のゴルフ場の会員権価格は一〇〇〇万円前後であり、東京近辺のゴルフ場でも二五〇〇万円を出せば通常のゴルフ場の会員権を購入することができる状況であったが、本件ゴルフ場では正会員数が一二〇〇人に限定されている上、最高級の家具調度品を備えたリゾートホテルが併設されるので、控訴人は二五〇〇万円を支出する価値があると考えたことから本件入会契約を締結したことが認められる。

4  以上1ないし3において判示したところによると、本件ゴルフ場については、単に、ゴルフを行うために必要なコースとクラブハウスのあるゴルフ場としてではなく、会員が家族連れで長期滞在してゴルフ以外にも御宿でのリゾート生活を楽しめる高級ホテルが併設されたゴルフ場であるとして会員を募集したものであって、その募集に際しては室内外プール、アスレチックジム等を備えた高級リゾートホテルが併設されることが最大の売り物となっており、したがって、また、入会金、預託金の額もそれに相応して高額になったものと認められる。

そうすると、本件入会契約は、ゴルフ場施設の利用と右のような高級リゾートホテルの利用とが一体となった施設利用契約と見るのが相当であり、控訴人が入会契約を締結するに当たっての動機ないし事情として前記のような事実関係が認められることも合わせ考えると、本件入会契約においては会員が会員として右のような高級リゾートホテルを利用できることが契約の重要な要素となっていると認めるのが相当である。

5  ところが、証拠(乙一、二、乙二一の一)によると、被控訴人は、クラブハウス棟については四階建から三階建に縮小して一応建設したが、ホテル棟は建設せず、当初設置を予定したホテル内の客室、レストラン、メインバー、室内プール、アスレチックジム、コンベンションルーム等のほか室外プールも設けていないことが認められる。

右の点について、被控訴人は、クラブハウスには客室一一室が設けられ、四二名が宿泊できるようになっているので必要十分な施設を完成させている旨主張する。しかし、右の客室数は、当初予定されていた四八室の四分の一にすぎない上、証拠(甲二八、乙二一の一)と弁論の全趣旨によると、右の客室については、一部はツインルームとなっているものの、ほとんどがパーティ用の四人部屋となっていること、ゴルフと宿泊のセット料金が定められていることが認められるので、そのような規模、内容の宿泊施設では利用者が事実上男性又は女性のみの団体客に限られたり、また、利用者が集中する時期にはゴルフをしない家族を連れての客室の予約がとれなかったりすることになるおそれがある。また、右証拠によると、クラブハウス内には、レストランが設けられていることが認められるが、前示のとおり、ホテル棟にはこれとは別個に和食、洋食のレストランが設けられることになっていたものであって、それらに代替するものであるとはいえない。

そうすると、右の宿泊施設が前示の高級リゾートホテルに代替しうるとはいえず、これを利用して、前示の会員募集用パンフレットに記載されているような、高級リゾートホテルに宿泊してゴルフと共に他のリゾート生活を楽しむといったことが可能であるとはいえないことになる。したがって、被控訴人は本件入会契約において控訴人に提供することを義務づけられているホテル施設を完成していないというべきである。

なお、控訴人は、第二期工事(ホテル棟関係)も将来行う予定である旨主張するが、前示のとおり、被控訴人は、資金不足のために、平成五年一一月には工事を第一期工事(クラブハウス棟関係)と第二期工事(ホテル棟関係)とに分けて行うことに決定した上、第一期工事のみを完成させて平成七年四月二六日に本件ゴルフ場を開場したものであり、その後、現在においても第二期工事のための資金調達のめどがたっていないことは、証拠(乙二〇、二二、三五)と弁論の全趣旨により明らかである。

6  以上、判示したところによると、控訴人が本件訴状の送達をもって債務不履行により本件入会契約を解除する旨の意思表示をした平成七年一月一二日の時点において、被控訴人は、社会通念上、本件ゴルフ場にリゾートホテルを併設してこれを会員の利用に供することが不能となっており、その結果、控訴人は本件入会契約を締結した目的を達することができなくなっていたものと認められるから、右解除は、その点において理由かあるというべきである。

なお、前示の事実によると、被控訴人が第二期工事(ホテル棟関係)を完成することができなかったのは、いわゆるバブルの崩壊により資金繰りが困難になったことが大きく影響しているものと認められるが、被控訴人には経済状況の変動をも予測して事業を行うべき義務があるのであって、右事情によって債務不履行の責めを免れるものではない。

第七結論

よって、控訴人の本件請求は理由があり、これを棄却した原判決は相当ではないから、これを取り消した上、本件請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 岡久幸治 北澤章功)

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